成年後見人による不動産売却まとめ
認知症などで判断能力の低下した方が所有者(名義人)になっている家や土地などの不動産を売却する場合、いくら判断ができないからと言っても、子どもや兄弟などの親族が勝手に売ることはできません。
仮に誰かが勝手に売ってしまったとしても、不動産を売った時すでに認知症だったことが後から判明した場合、売買契約自体が無効になります。
一般的に、認知症になった親名義の不動産を売却する場合、成年後見(せいねんこうけん)制度を活用して、成年後見人(せいねんこうけんにん)が代理で不動産売買の契約をすることになります。
そこで本記事では、成年後見制度を活用して認知症の親の不動産を売却する方法について解説します。
成年後見制度と成年後見人
成年後見制度とは、認知症や知的障害、精神障害などの理由で判断能力が落ちてしまった方が、契約などの法律行為や財産に関することで不利益を被らないように支援する制度です。
具体的には、
本人や親族などが家庭裁判所に申し立てをして後見人(こうけんにん)と呼ばれる人を選任してもらい、不動産の売買や預貯金などの財産の管理、介護施設との契約などを本人に代わって行える権利を与えてもらいます。
もし認知症の本人が強引な訪問販売などで悪質な商品を購入してしまった場合でも、成年後見制度によって後見人が決まっていれば、その契約を取消すことも可能です。
任意後見と法定後見
成年後見制度には、任意後見制度と法定後見制度の2つがあります。
①任意後見制度
現時点では元気で判断能力もある人が、将来のために後見人を選任して依頼する制度です。
認知症になった時に備えて
「自分の信頼できる人を後見人にして、成年後見制度を利用できるようにしておきたい」
と考えているような場合は、任意後見制度を利用することになります。
②法定後見制度
すでに本人の判断能力が十分ではない状態で、親族などが家庭裁判所に申し立てをして、家庭裁判所が後見人を選任する制度です。
すでに認知症を発症してしまっている場合は『法定後見制度』を利用して不動産を売却することになります。
法定後見の3類型
法定後見制度は本人の判断能力の状況によって「後見」「保佐」「補助」の3つに分かれています。症状の重い方から順に「後見」「保佐」「補助」となります。
家庭裁判所への申し立ての段階で、その人が「後見」「保佐」「補助」のどれに該当するのかをあらかじめ選択してから申し立てをします。
内閣府の発表によると、平成28年12月末時点で「後見」の割合が約79.2%、「保佐」の割合が約15.0、「補助」の割合が約4.5%、任意後見の割合は約1.2%となっています。
家や土地を売るために法定後見制度を使う場合は「後見」で申し立てをするのが一般的です。
では、3類型それぞれの特徴を見ていきましょう。
【後見】ほとんど判断できない方が対象
精神上の障害(知的障害、精神障害、認知症など)によって、判断能力がほとんどなくなってしまった人に適用されるもので、3類型で最も重い類型に当たります。
家庭裁判所に選ばれた「成年後見人」が法的に支援・保護します。
本人が行う法律行為(契約など)は日常生活に関することを除いて、そのほとんどがあとで取り消すことのできる行為となります。
成年後見人は、非常に広範囲な代理権(本人に代わって法律行為を行う権利)と取消権(本人が単独で行った法律行為を無効にする権利)を与えられます。
成年後見人は、本人から委任されることなしに不動産の取引を行うことができます(居住用不動産については別途、家庭裁判所の許可が必要)
成年後見人はこれらの権限を用いて本人の財産を管理するとともに、様々な契約などを本人に代わって行います。また、本人にとって不利益な契約を取り消すなどして保護します。
【保佐】判断能力が著しく低下した方が対象
精神上の障害(知的障害、精神障害、認知症など)によって、判断能力が特に不十分な人に適用されるものです。
日常的なことは一人でできても、不動産の取引やお金の貸し借りといった重要な法律行為を一人で行うのは不安だという場合です。
家庭裁判所に選ばれた「保佐人」が、そのような重要な法律行為を法的に支援することによって、本人を保護することを重視しています。
保佐人は、包括的な同意権(本人が単独で行った法律行為を有効にする権利)と取消権を与えられます。ただし代理権(本人に代わって法律行為を行う権利)は与えられません。もし代理権が必要な場合は家庭裁判所に申し立てをすれば、必要な範囲で代理権を持つことができます。
保佐人は、基本的には同意権と取消権を用いて、本人が重要な契約を行うのを支援します。具体的には、本人がした契約が妥当と判断される場合にはそれに同意します。また、本人が保佐人の同意なく単独で、不利益を被る可能性が高い契約をした場合はそれを取り消します。
代理権を与えられている場合は、その代理権の範囲内で本人の財産を管理したり、様々な契約を本人に代わって行うなどして支援します。
【補助】判断能力がある程度低下した方が対象
精神上の障害(知的障害、精神障害、認知症など)によって、判断能力がある程度低下してしまった人に適用されるもので、3類型の中では最も軽い類型に当たります。
日常生活については特に問題が無く、大体のことは自分で判断もできるが、一人では難しいことや苦手なことがいくつかあり、それについては他者の援助が必要というような場合です。
家庭裁判所に選ばれた「補助人」が、必要な範囲で個別に権限を持ってオーダーメイドの形で本人を支援することを重視しています。
補助人は、代理権や同意権などの権限を一切持っていません。権限が必要な場合は、家庭裁判所に個別に権限付与の申し立てを行う必要があります。
ただし、権限の包括的な付与ができないため、本人が一人では難しい事柄について必要な代理権や同意権を選んで、補助人に個別に付与することになります。
成年後見制度と成年後見人についてわかったところで、次は成年後見人がどのように決まるのかを解説します。
成年後見人の決まり方
誰が成年後見人になるかについて、申立人が希望を伝えることはできますが、最終的には親の住所地を管轄する家庭裁判所が選任します。
成年後見人制度の複雑さやトラブルの懸念から、弁護士や司法書士などの専門家が選任されることが多い傾向にあります。
裁判所が公開したH27年のデータによると、次のような人が成年後見人になっています。
引用元:SUUMO
このように、家族の中から選ばれることもあれば、弁護士や司法書士などの専門家の中から選ばれることもあります。
裁判所の発表によると、次のような場合は親族以外が成年後見人に選ばれる可能性が高くなるそうです。
親族以外が成年後見人に選ばれる可能性が高くなる場合
本人と親族の関係に懸念事項がある場合
・親族間に意見の対立がある場合
・後見人の候補者と本人との間に高額なお金の貸し借りや立替金があり、その清算について本人の利益を特に保護する必要がある場合
・後見人の候補者と本人との関係が疎遠であった場合
・遺産分割協議など後見人の候補者と本人との間で利益相反する行為について後見監督人等に本人の代理をしてもらう必要がある場合
成年後見制度を利用する動機に懸念事項がある場合
・不動産の売買や生命保険金の受領など、申立ての動機となった課題が重大な法律行為である場合
・後見人の候補者が自己もしくは自己の親族のために本人の財産を利用している、または利用する予定がある場合(担保提供を含む)
・後見人の候補者が、本人の財産の運用(投資)を目的として申し立てている場合
管理対象となる財産に懸念事項がある場合
・後見人の候補者と本人との生活費等が十分に分離されていない場合
・流動資産の額や種類が多い場合
・賃料収入など、年によって大きな変動が予想される財産を保有するため、定期的な収入状況を確認する必要がある場合
・本人の財産状況が不明確であり、専門職による調査を要する場合
・申立時に提出された財産目録や収支状況報告書の記載が十分でないなどから、今後の後見人等としての適正な事務遂行が難しいと思われる場合
後見人の候補者に懸念事項がある場合
・後見人の候補者が後見事務に自信がなかったり、相談できる者を希望したりした場合
・後見人の候補者が健康上の問題や多忙などで適正な後見事務を行えない、または行うことが難しい場合
その他に懸念事項がある場合
・本人について,訴訟・調停・債務整理等の法的手続を予定している場合
専門家が成年後見人に選任された場合、家族であっても認知症の方の財産に直接タッチできなくなります。
平成28年の内閣府の発表によると、成年後見人の申し立ての中で親族が後見人に選任されたものが全体の約28.1%、親族以外の第三者が選任されたものが全体の約71.9%となっています。
成年後見人になれない人
成年後見人になるために特別な資格は必要ありません。
ただ、認知症の本人に代わって財産などを管理するため、信頼できない人や問題を起こしそうな人を選ぶわけにはいきません。
そこで、民法847条では成年後見人の候補から外す人を次のように定めています。
- 未成年者
- 以前に法定代理人、保佐人、補助人を解任されたことがある人
- 破産者
- 本人に対して訴訟をした人、及びその配偶者と直系血族
- 行方の知れない者
家庭裁判所に成年後見の申し立てをして、成年後見が開始されるまでの流れをみていきましょう。
申し立てから成年後見人が決まるまでの期間は、2ヶ月以内が全体の約8割です。
成年後見人の申し立て手続きの流れ
1.家庭裁判所への申し立て
申し立てをする権利のある人
本人、配偶者、4親等以内の親族、検察官、市町村長などが申し立てを行うことができます。
社会福祉法人 品川区社会福祉協議会HPより
どこの裁判所に申し立てるのか
成年後見制度を利用するには、本人の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てをする必要があります。
住所地を管轄する家庭裁判所を調べるにはこちらをクリック(裁判所ホームページへ移動します)
申し立てに必要な書類
裁判所によって異なり、各裁判所のホームページで公開されています。
おおむね以下の書類が必要となります。
住所地を管轄する家庭裁判所を調べるにはこちらをクリック(裁判所ホームページへ移動します)
申し立ての費用
1.申立手数料(収入印紙)
後見/保佐/補助開始:800円
保佐(補助)開始+代理権(または同意権)付与:1,600円
保佐(補助)開始+代理権付与+同意権付与:2,400円
2.登記手数料(収入印紙)
2,600円
3.送達・送付費用(郵便切手)
3,000円~5,000円程度
4.鑑定費用
5万円~10万円程度(鑑定人により異なる)
2.裁判所の調査官による調査
家庭裁判所の調査官が申立人、本人、成年後見人の候補者に面談調査を行います。
面談調査では申し立ての理由や経歴、病歴、経済面の状況(財産や収支)などが確認されます。
また、本人の親族に後見人候補者についての意見を照会することもあります。
3.精神鑑定
成年後見制度を利用する場合は、明らかにその必要がないと認められる場合を除いて、本人の精神の状況について医師やその他適当な人に鑑定をしてもらう必要があります。
ただ、実際に鑑定がおこなわれるのは全体の約1割に過ぎません(平成27年に鑑定を実施したものは全体の約9.6%)
4.審判
裁判官が調査結果や提出資料にもとづいて判断を決定する手続きを審判といいます。
申立書に記載した成年後見人の候補者がそのまま選任されるとは限らず、家庭裁判所の判断によって弁護士や司法書士などの専門家が選任されることがあります。
親族が成年後見人として選任された場合、家庭裁判所の判断によっては弁護士などの専門家が、成年後見人を監督・指導する成年後見監督人として選任されることもあります。
5.審判の通知と確定
審判の内容は書面化され、審判書として成年後見人に送付されます。
審判書が成年後見人に届いてから2週間以内に不服の申立てがされなければ、後見開始の審判の効力が確定します。
もし審判の内容に不服がある場合、申立人や利害関係人はこの2週間の間に不服申立の手続きをとることができます。
ただし、誰を成年後見人にするかという家庭裁判所の「人選」に対して不服申立てをすることはできません。
不服申し立てができるのは「後見を開始するかどうか」に対してだけです。
6.法定後見開始
審判が確定すると、裁判所から法務局に登記の依頼がされます。
この登記は後見登記と呼ばれており、後見人の氏名や後見人の権限などが記載されています。
後見登記は裁判所が依頼してから2週間程度で完了し、完了後に後見人へ登記番号が通知されます。
成年後見登記が完了すれば成年後見業務ができるようになり、不動産の売却に向けた取り組みもできるようになります。
認知症の本人に代わって成年後見人が不動産を売却する場合、売りたい不動産が居住用かどうかによって、必要な手続きが大きく変わってきます。
居住用不動産の売却
ここでいう「居住用」とは以下を指します。
・認知症の方が現在居住している
・現在居住していないとしても、過去に生活の本拠となっていた
・将来的に生活の本拠とする予定がある
本人が施設に入っていたとしても、施設から出たときに居住する予定のある建物については居住用不動産とみなされる可能性があるので注意が必要です。
成年後見人が居住用不動産を売却したり、誰かに貸したり、増改築をしたり、不動産を担保にお金を借りようとする場合には、必ず家庭裁判所の許可が必要となります。
裁判所の許可をとらずにこれらを行ってしまった場合、その行為は無効となります。
成年後見人が居住用不動産を売却する際の流れ
1.仲介してくれる不動産会社を選ぶ
不動産を売却する際、まず仲介してくれる不動産会社を選ぶのが一般的です。
信頼できる不動産会社を選ぶためには、複数の会社に査定を依頼して、売却方針などについて十分話を聞いたうえで1社に絞るのが良いでしょう。
2.不動産を売り出す
不動産会社に売却活動をしてもらうために媒介(ばいかい)契約を結びます。
媒介契約とは、売却活動を不動産会社(=宅地建物取引業者 通称:宅建業者)に依頼する契約のことをいいます。
不動産会社は、契約内容をめぐってトラブルが起こるのを防ぐため、売り出し価格や媒介契約の有効期限、売却に成功した場合の報酬など、媒介契約の内容を記載した媒介契約書を作り、売却の依頼者に渡さなければなりません。
媒介契約を取り交わしたら、不動産会社が広告宣伝活動を開始します。
購入希望者が現れると、家の中を見たいという”内覧”の希望者が出てきますので、気に入ってもらえるよう、丁寧に対応しましょう。
3.売買契約を結ぶ
購入希望者と価格や引き渡し時期などが折り合えば、売買契約を締結します。
ただ、買い手にとっても売り手にとっても、裁判所からの売却許可が出るかどうか分からない段階で契約することはリスクがあります。
そこで、成年後見人が代理で売却するケースでは、契約の中に「停止条件付取引」の条項を付けるのが一般的です。
これは裁判所の売却許可が出た場合に契約が有効になるという特約で、許可が下りなければ正式な契約として成り立たないことに両者が同意するものです。
4.家庭裁判所に売却許可の申し立て
申し立てに必要な書類はおおむね以下のとおりです。
・申立書
・収入印紙800円、郵便切手82円
・不動産売買契約書
・不動産の評価証明書
・不動産の登記簿
・不動産の査定書など売却価格の妥当性を説明する資料
・親族等の同意書
5.家庭裁判所の許可
裁判所は売却を許可するかどうかを決める際、認知症になってしまった方の財産の維持を重要視します。
・将来自宅に帰る可能性は本当にゼロなのか?
・売る相手は誰なのか?(利害関係が無いか)
・売却価格は適正なのか?
・どうしても売却しなければいけない事情や必要性があるのか?
こういった自宅の売却の必要性を裁判所に理解してもらう為に、手間と時間がかかってしまう事はよくあります。
「固定資産税を払うのがもったいない」
くらいの理由では、売却の許可が下りない可能性は高いですし
「親を老人ホームへ入れる入所費用に充てたい」
「今の老人ホームよりも高いグレードの老人ホームに入れてあげたい」
といった認知症の方ご本人のための理由であっても、許可されるとは限りません。
認知症の親の家を売るために成年後見人を立てたけど売却できない場合がある
というリスクを念頭に入れておきましょう。
もし許可を得ずに勝手に取引を進めてしまった場合は契約が無効になります。
買い手から損害賠償を請求される事態に発展する可能性もあるため、無許可での売買は絶対にしないでください。
6.売買契約の締結、決済、引き渡し
裁判所の許可が下りたら、通常の不動産売却と同じ流れになります。
売買契約書に従って売却代金などお金のやり取りを行い、不動産を買い手に引き渡します。
なお、不動産を売って入ってきたお金は本人のためにしか使うことができません。
「不動産を売ったお金で息子が家を建てる」
といったことはできません。
7.所有権移転登記
不動産会社の仲介で売却した場合、司法書士に所有権の移転登記を委任するのが一般的です。
登記の際には通常の登記で必要になる書類に加えて、
・家庭裁判所の売却許可決定書
・成年後見人の登記事項証明書
が必要になります。
所有権の移転登記の完了をもって、不動産の売却は完了したことになります。
非居住用不動産の売却
投資用のアパートやマンションなど、非居住用の不動産の場合、売却にあたって家庭裁判所の許可を得る必要はありません。
ただ、成年後見人が自由に売却処分して良いかというとそうではなく、本人のためであり、その必要性が求められます。
「必要性がある」というのは、例えば医療費の捻出や施設への入居の為の費用を捻出するなど、売却しなければならない理由があることを指します。
また、売却処分するにあたっては、本人に不利とならないような条件でなければなりません。
売却金額が市場で取引される金額と大きく乖離しないようにするなど、本人の利益を害することがないように、成年後見人は契約内容にも責任を持たなければなりません。
後見人の財産管理には高度な注意義務が課せられており、後見人の不注意によって認知症の方に損害を与えた場合、損害賠償の責任が生じます。
成年後見人を監督・指導する成年後見監督人が選任されている場合は、監督人の同意を得る必要があります。
成年後見制度を活用する際の注意点
成年後見人への報酬
基本報酬は月額2万円程度で、後見人が管理する財産の額に応じて報酬は多くなる傾向にあります。
管理する財産額が1000万円以上5000万円以下の場合には月額3万円~4万円、管理する財産額が5000万円以上の場合には月額5万円~6万円が目安となります。
何か特別困難な事情があった場合、基本報酬額の50%の範囲内で付加報酬を請求される可能性もあります。
不動産の売却によって発生する追加報酬
さらに、成年後見人が不動産の売却をした場合は追加報酬が発生します。
売却金額によって報酬額は変わりますが、
3000万円で不動産を売却した場合は40~70万円程度と言われています。
ただ、報酬額に法律で定められたルールはありません。
これらはあくまでも目安で、実際の金額については裁判官が事案ごとに適当な額を決めることになります。
給料のように毎月支払うわけではない
後見人の報酬は家庭裁判所が決定し、認知症の本人の財産の中から支払われます。
ただ、給料のように毎月決まって支払う(もらえる)わけではありません。
後見人が報酬を受け取る場合は、家庭裁判所に後見人報酬の申請をする必要があります。
後見人報酬の申請は義務でありませんので、身内が後見人となっている場合、後見人報酬を申請しないことはよくあります。
また、弁護士や司法書士が後見人となる場合、彼らは数ある仕事の中の一つとして後見人の仕事を引き受けています。後見人報酬だけで生計を立てている人はまずいません。
そのため、後見人報酬の申請は毎月ではなく、半年に1回や年に1回など、ある程度の期間をまとめて行われることが多いです。
不動産を売却しても終わらない成年後見制度
不動産を売却できたとしても成年後見制度の利用は続きます。
5年、10年、それ以上となれば、成年後見人が問題を起こしたり、成年後見人の辞任や解任といった状況になるかもしれません。
成年後見制度を活用して不動産を売却したあとで
「こんなはずじゃなかった」
とならないように、成年後見人の辞任と解任についても知っておきましょう。
成年後見人は簡単には辞められない
成年後見人を引き受けると、正当な理由がない限りやめることができません。
「いやになったからやめます」というのは認められません。
成年後見人を辞められる正当な理由としては
・成年後見人の体調が思わしくない
・成年後見人が転勤する
などです。
このような正当な理由がある場合、家庭裁判所へ「成年後見人辞任許可審判申立」をすることになります。
そこで家庭裁判所の許可がもらえれば辞められるのですが、それだけでは終わりません。
認知症のご本人にとっては成年後見制度の利用が必要な状況が続いているので、新しい後見人が必要になります。
原則として、後見人を辞める場合は代わりに引き受けてくれる人を自分で探して、次の後見人として選んでもらえるよう家庭裁判所に請求しなければなりません。
そして、その人が適任であると家庭裁判所が判断してくれれば、新しい後見人が就任して辞めることができます。
成年後見人が解任になるケース
家庭裁判所が選任した後見人であっても、不正を行ったり、後見人として不適切な行いをした場合は解任することができます。
後見人が解任されうるケースは次のようなものです。
1.不正な行為があった
主に財産の使い込みや横領です。日常的な食品や薬の買い物なども、本人のためではなく後見人が自分のために購入したのなら不正行為にあたります。
後見人の金遣いが急に荒くなったと感じた場合、財産が急に減っていないかを確認すべきです。
2.後見人として品位に欠ける行為があった
財産管理や様々な手続きにおいて、後見人としての適性に欠けると判断される場合です。
具体的には次のような業務を行っていく中で、本人の危険に繋がりそうな状況が見受けられる場合です。
1)財産管理事務
・預貯金の入出金チェックと必要な費用の支払い
・不動産の管理
・株式、有価証券の管理
・税金の申告・納税
・居住用不動産の処分等
2)身上監護事務
・医療・介護サービスの契約
・住居の確保
・施設の入退所、処遇の監視
おかしいと感じたら、後見人の適性の欠如を立証できるように日頃から証拠を集めておきましょう。
3.その他後見等の任務に適しない事由があった
後見業務の怠慢や家庭裁判所の命令違反、被後見人との関係破綻などを指します。具体的には次のようなものです。
①後見業務の怠慢
後見人が本来行うべき業務を怠ることで本人に不利益が出る場合です。例えば、交通事故で脳に障害が残ってしまったことで本来受け取れるはずであった障害年金について、後見人が手続きを行なっていなかったため障害年金を受け取れていなかった、というようなケースが想定されます。
②家庭裁判所の命令違反
後見人が家庭裁判所の求めに応じず、財産の調査や財産目録(財産の状態を分類して記したもの)の作成、その他報告を行わなかった場合です。こういった状態が続いた場合、家庭裁判所が職権で後見人を解任することがあります。
③本人との関係破綻
親族が後見人になったときに起こりうる解任事由です。例えば、認知症の父親と後見人である子の関係が悪く、父親への虐待がある場合は関係破綻にあたります。
このように、成年後見人になることで様々な業務とそれに対する責任を負うことになります。
絶対に売却できるとは限らない
成年後見人であっても、ご自宅を売却する場合は家庭裁判所の許可が必要となります。そして許可するかどうかを決める際、家庭裁判所は認知症になってしまった方の財産の維持を重要視します。
・親が将来自宅に帰る可能性は本当に0%なのか?
・売却価格は適正なのか?
・どうしても売却しなければいけない事情があるのか?
こういった『自宅の売却の必要性』を家庭裁判所に理解してもらう為に、手間と時間がかかってしまう事はよくあります。
「固定資産税を払うのがもったいない」
くらいの理由では、売却の許可は下りないでしょう。
成年後見人の申し立て、売却の許可を得るための申し立て、どちらもたくさんの書類を揃えたり、たくさんの人を巻き込んだりする必要があります。
そこまでしたのにも関わらず売却の許可が下りなかったら、落胆と同時にやり場のない怒りがこみ上げてきて、認知症になった親を恨むことさえしかねません…。
ここまでお伝えした来たように、成年後見制度を利用して不動産を売るためには、多くの手順を踏まなければなりません。
また、不動産を売って終わりではありませんし、成年後見制度を利用したからといって必ず売却できるとも限りません。
本当に成年後見制度を利用して売るのが最適な選択なのか
を判断するのはそう簡単ではないと思います。
認知症になっても売れる可能性
認知症といってもその程度は様々です。
日によっても天気や時間帯によっても状態は変わります。
実際、認知症の判断基準にはあいまいなところがあり、加齢によって脳の機能が低下しただけなのか認知症なのか判断が難しいです。
重度の認知症でも裁判所が売却を認めた事例
平成21年11月10日、東京地方裁判所で中等度~重度の認知症の方が行った不動産の売却を「有効」とする判決が出ました。
この判決は、認知症=売却ができないというわけではなく、認知症の程度によっては売却が可能であることを裁判所が正式に認めたことを意味しています。
認知症の方が行った不動産売却が裁判所で有効と判断された例は他にもあります。
そこで当サポートオフィスでは
本当は売却できる状態なのに「できない」と言われてしまい、
・相続が発生するまで待つ
・空き家の状態で放置する
など、不本意な選択をしてしまう方を減らす活動をしております。
具体的には、認知症に精通した司法書士と連携を取り、これまで解決してきた実績をもとに判断して売却のサポートをしております。
当サポートオフィスを始めてからすでに3年が経ちますが、サポート開始当初より北は北海道、南は沖縄まで、全国からご相談が寄せられています。中には、非常に難しい状況に置かれてしまっている方もいらっしゃいました。
認知症の方の不動産売却は判断を間違えると単に「不動産を売る」という話だけでは終わらず、成年後見制度や相続の問題など、あなたやご親族の今後に大きな影響を与えうる事態に発展する恐れがあります。
ただ、この問題を解決するには認知症や相続、不動産に関する幅広い専門知識が必要になりますので、『誰に相談するか』がきわめて重要になってきます。
当サポートオフィスには成年後見制度が定められた民法や不動産売買に関連する法律に精通している不動産のプロと認知症に精通した司法書士がおります。
認知症が疑われるご本人様の状態により通常の売買契約で必ず売れるという保証はできませんが、他のどこよりも的確な判断を行えるという点については間違いないと自信を持っております。
認知症に関わる問題は早ければ早いほど選択肢が増え、解決できる可能性が高くなります。
しかし、認知症が進んでしまったらもう手遅れです。
認知症の親の家や土地の売却に関して何かお困りごとがございましたら、どうか遠慮などならさずに、この機会にご相談ください。
無料で中立の立場にある専門家からアドバイスを受けることができます。