認知症の基礎知識

認知症の初期症状

親の認知症が進行する前に手を打ちましょう

不動産を売却するとき、所有者が認知症だと難しくなります。

「うちの親、もしかして認知症かも…」

と感じたら、すぐに手を打つ必要が出てきます。

認知症が進行して取り返しがつかなくならないためには、認知症の初期症状を見逃さないことが大切です。

ここでは代表的な認知症の初期症状をお伝えしますので、日ごろの親の言動と照らし合わせて、該当するものが無いかチェックしてみて下さい。

 

代表的な認知症の初期症状

日時が不確かになる

「今日は何月何日なのか?」

「今は朝・昼・晩のいつなのか?」

といった時間に関することだけでなく

「今どこにいるのか?」

「目の前にいる相手とはどんな関係なのか?」

といった今の自分の状況がわからなくなる傾向があります。

 

やり方がわからなくなる

  • テレビやエアコンのリモコンが使えない
  • 料理が失敗する
  • 服を着たり脱ぐのにもたつく
  • 物事の段取りがわからなくなる

 

このような「歳のせいかな…?」と思ってしまうような些細な出来事が頻繁に起こるようになったら認知症の初期症状を疑ったほうがよいかもしれません。

 

もの忘れが増える

認知症の初期に起こる記憶障害の代表的なのがもの忘れです。

今話したことを覚えていなかったり、食事をしたことを忘れたり、探し物やガスの消し忘れなどが増えてきたら要注意です。

 

認知症の初期症状から抗うつ状態へ

本人は身に覚えがないことも多く、悪気があってやったわけではありません。

それなのに家族から色々と指摘されたり、叱られたりするようになるわけです。

本人は不本意に思ってイライラしたり、落ち込んだり、突然悲しくなったり…

そんな状態が続くと、不安や恐怖、混乱などから抗うつ状態になってしまう方も少なくありません。

 

認知症には”波”がある

認知症が始まっていても、常に何か起こるわけではありません。

理路整然と話ができるのに、突然リモコンのボタンを押すという単純な操作がわからなくなったりします。

認知症の疑いがある方の不動産を売却するときに難しいのが、この症状の”波”です。

一般的に不動産の売却には司法書士が所有者と面談して本人確認や売却の意思確認など、契約の有効性を判断します。

その際、認知症の症状が出ていると契約が有効だと認められないことがあります、逆に症状が出ていないときであれば普通に契約が有効だと認められることがあります。

認知症の疑いのある親の家や土地を売る場合は、認知症に精通した司法書士にお願いしたほうがよいでしょう。

 

認知症検査に100%は無い

軽度認知障害や初期の認知症が疑われる状況で不動産を売ろうとする場合、相談する相手によって判断が変わってきます。認知症かどうか、またその程度を見極めることは医師でも困難と言われています。ここでは、認知症かどうかを判断するために現状どのような検査が行われているのかをご紹介いたします。

 

認知症検査の種類

認知症の検査は、問診や診察、神経心理学的検査、CTやMRIなどの画像検査、血液検査などによって行われます。

 

問診

迷子になったり、着衣時に混乱することは無いかなどを家族に聞き、その話に対して本人がどんな反応をするのかを観察します。

 

診察

会話の中身や応答の仕方だけではなく、診察室に入ってくるときの歩き方や身だしなみ、あいさつの仕方や表情などを見ます。

 

神経心理学的検査

長谷川式認知症スケール

精神科医の長谷川和夫さんによって作成された簡易的な知能検査。10分程度の検査で、30点満点中20点以下で認知症の疑いがあります。

 

MMSE

国際的な認知機能の簡易検査。10分程度の検査で30点満点中23点以下で認知症の疑い。言語機能の配分が高いため、初期段階の方でも言語障害がある場合には点数が低くなりやすく、視覚的な障害が主な症状の場合は点数が高めに出る傾向があるので注意が必要です。

 

ABC認知症スケール

認知症の重症度を評価するために開発された検査。10分程度の検査で、日常生活動作や行動および心理症状、認知機能の重症度を同時に評価することができます。

 

画像検査

CT検査

エックス線で体の断面を撮影する機械に頭を入れ、脳の輪切り画像を撮って萎縮状態を見ます。

MRI検査

磁気を用いて脳の断面を撮影する。CT検査よりも画像が鮮明で、脳の萎縮状態を正確に把握できます。

SPECT画像

脳の血流状態を見るための画像検査。微量の放射性医薬品を静脈に注射して脳の画像を撮影。機能が低下している部位の血流を調べます。

 

血液検査

甲状腺ホルモン、ビタミンB群

甲状腺機能の低下やビタミンB群欠乏症から、認知機能が低下することがあります。

 

認知症検査を受けても診断は難しい

検査の結果はすぐに出ないことが多く、何度か受信してから診断を聞くことになります。

認知症の専門ではない医療機関の場合、脳の萎縮があまり見られないと「年相応のもの忘れでしょう」と言われて終わることがあります。

しかし、その後1年もしないうちに症状が出てきて「やっぱりあの時から認知症だったんだ…」と判明することも珍しくありません。

病状や進行状況には個人差があります。認知機能が低下するペースも様々です。

このように、医師でも判断が難しい認知症の診断。認知症に精通した司法書士や不動産会社を選ぶように心掛けてください。

 

認知症の症状を見逃さない日々の対応

認知症の症状を見逃さないためには…?

認知症の小さな変化に気づくのは、たいてい同居している家族です。

一緒に生活していて「あれっ?」と思うところから疑いが始まります。

「さっき話したことなのに覚えていない」

「部屋が散らかるようになった」

「どこかいつもと違う…」

そんな微かな変化が認知症初期の兆候です。

それに気づくことができれば、進行を遅らせたり、認知症がもとになる他の二次的な症状を和らげたりできます。

 

本人は自分の異変に気付きながらも相談できない人が多い

「なにかおかしいな…」当然本人も気がついています。

ところが多くの人はなかなか病院に足を運ぼうとしません。

自分に違和感を感じながらも

「認知症だと告知されたらどうしよう…」

そんな恐怖を感じてしまい、診察を受ける勇気が出ないのです。

 

本人にも家族にも症状の判断は難しい

おかしいと感じながらも現実を直視できず「歳のせいだから」という言葉でごまかしてしまう方が多いです。

そのまま症状が進行してくると、本人の自覚があいまいになってきて、症状を自分で説明することすら難しくなってしまいます。

そのため、あなたや家族に認知症の知識がないと病状を正しく把握することができなくなってしまうのです。

親の様子がおかしいなと感じたら、まず認知症のチェックリストを試してみましょう。

 

認知症早期発見チェックリスト

  1. いつも日にちを忘れてしまう
  2. 少し前のことをしばしば忘れてしまう
  3. 最近聞いた話を繰り返すことができない
  4. 同じ時間内に同じことを言うことがしばしばある
  5. 以前した話を繰り返す
  6. 特定の単語や言葉が出てこないことがしばしばある
  7. 話の脈絡をすぐに失う(話があちこちに飛ぶなど)
  8. 質問を理解していないことが答えからわかる(質問に対する答えが的外れで、かみあわないなど)
  9. 会話を理解するのが難しい
  10. 時間の観念がない(時間がわからない、午前・午後の区別がつかないなど)
  11. 話のつじつまを合わせようとする
  12. 家族に依存する様子がある(本人に質問すると家族の方を向くなど)

 

※12 項目中、4 項目以上が該当した場合、認知症の疑いがあります。

(初期認知症兆候観察リスト Hopman-Rock M, :Int J Geriatr Psychiatry. :2001Apr;16(4):406-14.より一部改変)

 

家族だけでも早めに相談を

本人が病院へ行くのを拒む場合、嘘を言ったり無理強いするのはやめましょう。信頼関係が崩れて、これから先の生活に悪影響を及ぼします。

相談する際は、健康診断を兼ねてかかりつけ医に診てもらうなど、最初の相談は馴染みのある医師にするのがいいでしょう。

また、もの忘れ外来などの専門の診療科であれば、家族だけで相談できる所もあります。

認知症初期に適切な対応がとれれば、その先の不便や不安を最小限に抑えることができ、親の家や土地を売却できなくなる可能性も最小限に抑えることができます。

 

認知症ケアで症状の進行を防ぐ

ケアを基本に治療法を組み合わせる

認知症の疑いが出てきたら、症状の進行を防ぐ取り組みをすぐに開始すべきです。認知症の症状が進めば進むほど売却は難しくなります。ここでは認知症の症状の進行を防ぐのに効果的と言われている代表的なものをご紹介します。

認知症を完治させる薬はまだありません。しかし近年では認知機能低下の進行を遅らせる薬のほか、薬に頼らないケアで症状の進行を遅らせようとする試みも注目されています。

 

音楽療法

音楽を聴く、歌う、打楽器を演奏する、リズム運動をすることで不安感に対して有効な場合があります。

 

運動療法

有酸素運動や筋力トレーニング、平衡感覚訓練などを組み合わせて取り組むことで、認知機能を改善させる可能性があります。

 

回想法

これまでの人生について話してもらい、聞き手が傾聴します。幸福感が増して気分の安定につながるという報告があります。

 

ゆっくり進行しながら末期に至る

適切な医療や環境、ケア、リハビリで認知症の進行を遅らせることができるようになってきました。しかし、認知機能は緩やかに低下していきます。

 

認知症初期:3~4年 物忘れが目立つ

当たり前にやっていたことができなくなる。

  • 同じ話や質問を繰り返す。
  • 今日が何日かわからない。
  • 置き忘れやしまい忘れが多い
  • 料理などの複雑な家事ができなくなる。

 

認知症中期:2~3年以上 日常生活が困難になる

  • 入浴を忘れる。
  • 一人で買い物をすることが難しい。
  • 状況に合った服装が選べなくなる。

 

認知症後期:4~5年以上 生活すべてにサポートが必要

意思疎通が徐々に難しくなり、生活の様々な場面でサポートが必要です。

  • 一人で服を着たりお風呂に入るのが難しい。
  • トイレを流し忘れる。
  • 排泄の失敗が増える。

 

認知症末期

認知機能と共に身体機能も低下。寝たきりになって食べ物をうまく飲み込めなくなり、誤嚥性肺炎の危険性が高まる。心臓や腎臓の機能が低下すると老衰の状態になる。

 

認知症ケアの効果は個人差が大きい

適切なケアを組み合わせることができれば、認知症の進行を遅らせることができます。ただ、どんな療法にしろ効果には個人差が大きく、経過を注意深く観察しながら対応していく必要があります。

不動産の売却も、認知症の疑いが出てからどの段階まで可能かは一概に言えません。まずは認知症に精通した司法書士、不動産会社に相談しましょう。

 

 

認知症発症後の平均余命

あなたは、認知症になった方の
『平均余命』をご存じですか?

調査結果はいくつかありますが

5~12年

くらいのようです。

このことは、見方を変えれば

認知症の親に関する

・様々な手続きができなくなる
・銀行口座が凍結される
・家の売却や名義変更ができなくなる

という期間が5~12年以上続く

ということになります。

これだけ時間が経てば
ご両親だけでなく
あなた自身の状況も
変わってくるでしょう。

親が施設に入ることになり…

最初は空き家になった家を
自分が管理していたけれど
だんだん負担になってきた。

最初は介護や施設にかかる費用を
自分が出してきたけれど
だんだん負担が大きくなってきた。

短期間なら何とかなることも
それが5年、10年となると
どうなるかわかりません。

親には長生きしてもらいたい一方で
それによって起こる様々な出来事に
対処するのが難しくなってくるのです。

認知症は急に症状が進むこともあります。

今なら問題無くできる手続きが
1か月後にはできなくなっている…

普通にあり得ることです。

認知症は(少なくとも現時点では)
進行を遅らせることはできても
回復させることは極めて困難です。

”一線を超えてしまったら”

それまでです。

「どうしてあの時
放置してしまったのか…」

悔やんでも悔やみきれません。

そのような理由から
当サポートオフィスでは

『ご両親に認知症の疑いがあるのなら
今すぐに動き出す』

ことを強くお勧めしています。

「うちはまだ大丈夫」

と先延ばしにしないようにしましょう。

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